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中小企業のDX化と会計事務所の役割
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DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)という単語をよく見聞きするようになりましたが、どのような意味かご存じでしょうか?
様々な定義があると思いますが、「進化したIT技術を浸透させることで、人々の生活をより良いものへと変革させるという概念」と提唱者であるスウェーデンのウメオ大学教授エリック・ストルターマン氏は言っています。
また、2018年に経済産業省が公表した定義には、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とあり、ビジネスの世界でも明確に定義され、注目されている概念です。
目次
経済産業省の定義にあるように、IT技術の革新によりビジネス環境は激しく変化しています。このような激しい変化の中、どのような業種業態においてもIT技術の活用は欠かせないものになっています。
「強いものが生き延びたのではない。頭のいいものでもない。変化に対応できるものが生き延びたのだ」―チャールズ・ダーウィン
ダーウィンが言う通り、生き残るためには中小企業においてもこのような激しい環境変化に対応していく必要があります。特にIT技術の変化への対応、DX化は避けられないでしょう。
しかし、私たちが会計事務所の業務の中で感じる中小企業のDX化の実態は、道半ばどころか、スタートも切っていないように感じます。
最近お客様になったある土木会社での話です。
今から1年ほど前、私たちがかかわらせていただく前ですが、先代の社長の体調が悪くなり、急遽、息子さんに事業承継が行われました。前職は東京の大手企業で働かれていた息子さん(現社長)は、業務の実態を見て愕然としたそうです。
まず、現場に出ている社員に連絡をしようとしても、電話しか連絡手段がなく、電話に出てもらえないか、出ても周りがうるさくて要件を伝えるのに大声を出さなければならない状況だったそうです。
ビジネスチャットを導入しようとしても、社員は高齢者も多く8割はガラケー使用者で理解してもらえなかったそうです。
紙での承認手続も多く社長のデスクは資料で溢れ、何が重要な書類なのかの区別も大変な状況。図面も古いシステムで作られており、使える社員はごくわずか。そして、20名ほどの組織でPCは会社に3台しかなく、かなり古いOSでデータの保存やセキュリティにも問題がありそうでした。
現社長は、このような状況を打破するため、改革を進めていきました。
まずは、ビジネスチャットの整備から始めたそうです。社員全員にスマホを支給し、チャットを使ってもらうことから始めました。現場でチャットを使ってやり取りをしてもらい、工事の様子を写真で撮って送ってもらうなど、使うことのメリットを感じてもらえるように、使い方を指南したそうです。
初めはなかなかうまく使えなかった社員も、使い慣れてメリットを感じると「スマホなしでは仕事ができない」と言うようになったそうです。
このような状態になった後の改革は早かったそうです。社内の承認フローをシステム化し、3Dキャドを導入。PC台数も増やしセキュリティも強化しました。
チャット導入により、「テクノロジーは自分たちの仕事を楽にしてくれる」という感覚が醸成されたことで、IT化に対する抵抗が少なくなったのが原因だと社長は言っていました。
今では、現場の調査をドローンで行うようになったり、AI型クラウド会計システムの導入による経営管理システムの革新など、最新のテクノロジーを経営に取り入れています。
上記事例は、もともとITリテラシーの低い組織、オールドビジネスにおける事例です。稀な事例だと思われるかもしれませんが、現場からの実感としては、このような会社は中小企業ではまだまだ多いのではないかと思います。
そして、上記事例は多くの示唆を私たちに与えてくれます。
中小企業のDX化が進まない理由は、一般的に想像されているような高度な話ではなく、もっと簡単なことがハードルになっているのではないかと考えられます。DX化のハードルには下記のようなものが挙げられるのではないかと思います。
その他にも理由があると思いますが、ハードルになっているのはどれも高度な技術や投資を必要とするものではなく、心理的なものや基本的なシステムがあれば乗り越えられるものが多いのではないかと思います。
上記事例からわかるように、中小企業のDX化に必要な支援は、必ずしも高度なIT技術・テクノロジーの導入支援や資金的な支援ではないと思います。
実態に沿った支援であり、心理的なハードルを和らげてくれるような支援です。上記事例では、チャットを社内に入れるだけで、現場で効果を感じる社員が表れ、その後DX化が進んでいます。
会計事務所は、中小企業の経営に寄り添い、内情を細かく把握し、実態に合ったご支援ができる存在です。まさに中小企業のDX化のご支援には最適で身近な存在ではないかと思います。
しかし、会計事務所自体も高齢化が進み、ITリテラシーが低い事務所も多く、せっかく上記のようなポジションにいても、なかなかその地位を活かしたDX化の支援をできている会計事務所は少ないように思います。
それでは、どのような会計事務所がDX化の支援に向いているのでしょうか。
下記のような特徴のある事務所ではないかと思います。
あくまで私見ですが、ITに強い会計事務所は上記のような特徴があると思います。やはり、若手の多い事務所は、ITリテラシーが高いイメージです。しかし、税理士の平均年齢は65歳を超えています。若い人の税理士試験の受験者数も年々減少していることから、若手税理士は少なく、このような特徴を備えている事務所は少ないように思います。
会計事務所には、さまざまな特徴のある事務所が多くあります。税務調査対応に強みのある事務所や相続税に強い事務所、大企業の税務対応が得意な事務所や医業などの特殊業種に特化している事務所など、ニーズに応じた選び方をしたほうがいいでしょう。
上記に挙げたのは、あくまでITに強い事務所を選びたい場合に見るべき特徴です。その点はご注意いただければと思います。
さて、それでは会計事務所には、どのようなDX化の支援を期待すべきなのでしょうか?
会計事務所はあくまで税務、会計のスペシャリストが集まる組織です。システム開発など、高度なIT支援を求めるべき相手ではありません。あくまで基礎的なIT導入の相談をする相手と考えるべきです。
ただし、専門分野である財務会計については、深いITの見識を期待してもいいでしょう。最近では、AI型クラウド会計システムを導入している会社も増えてきましたが、初期設定等、導入のハードルはまだまだ高いのが現状です。
このような会計システムの導入は会計事務所の支援が欠かせないでしょう。
会計システムの導入支援を軸として、請求書の発行システム、購買、販売管理システム、入金管理システム、HR系のシステムなど、経営管理系システムの導入について支援を受けることが適切だと思います。また、日常業務に役立つチャットやクラウド、承認フローなどの簡単なシステムの導入について、このようなITに強みのある事務所はノウハウを持っていることも多いので、相談してみるといいでしょう。
中小企業のDX化は難しいことから始めるとうまくいかないことが多いです。
簡単に使えて現場で効果を感じやすいものから導入するといいと思います。
下記の順番で検討してはいかがでしょうか。
ビジネス環境が著しく変化していく中、中小企業も生き残りをかけて様々な取り組みをしていかなければならないと思います。DX化もその一つでしょう。
上記でご紹介したような基礎的なIT技術の導入は、会社によっては当たり前だと思われるかもしれません。しかし、中小企業の多くが、このような簡単に導入できるIT技術を取り入れずに経営をしています。
サービス品質や営業、商品開発など、他の経営機能を革新するよりも、DX化に目を向けたほうが簡単に同業他社との差別化要因を作れるかもしれません。
中小企業はまだまだDX化によって業績を伸ばす可能性を秘めています。ぜひ、身近な存在の会計事務所にご相談されることをお勧めします。